次に衣装ですが、木の鐸会の雛人形に使う布は、古い時代布が基本です。量産されている雛人形の衣装は、人形用に作られていますが、そうした生地では風格が生まれないため、正絹製の古い帯地や表装布から厳選したものを使います。
この布地を探すのが大変で、今ではいい布は滅多に手に入りません。
また、古今雛は着物をそのまま着せていますが、木の鐸会の雛人形は十二単(じゅうにひとえ)の衣装も丹念に胴体部に木目込んでいきます。これは大変な手間と技術が必要で、一般的な雛人形では真似することができません。技術を持った職人がいないだけでなく、コストがかかりすぎて商売にならないからです。
従来、木目込みの雛人形は立ち雛に限られていました。胴体がシンプルな造形でないと木目込みできないからです。
しかし、木の鐸会創始者・鐸木能子は、十二単の衣装人形に木目込みの技法を使うことに挑戦し、それを実現させました。このタイプの雛人形は雛人形の歴史に新しい足跡を残しました。
立ち雛も、一般的なシンプルな造形のものだけでなく、複雑な曲線を描いたボリュームのある立ち雛にも挑戦しています。このタイプの立ち雛は布をきれいに木目込むのが大変難しく、制作には十二単雛とは違う難しさがあります。
室町雛をモデルに、より現代的で複雑な造形に仕上げた立ち雛
どちらも大変な手間がかかるため、一人の作家が作れる数はせいぜい年間数組です。結果、世界中に木目込み十二単の雛人形は限られた数しか存在しません。
古今雛の衣装は衣装をそのまま着せている
木の鐸会の雛人形は「木目込み」されている
「製造」するのではなく「創造」する
商品としての雛人形の世界は分業化されています。手だけを作る職人、衣装をミシンで縫う人、それを着せつける人、義眼を製造する工場……と、効率を上げるために作業が細分化されています。頭部は「かしら師」と呼ばれる頭部専門の職人が手がけます。
しかし、木の鐸会の雛人形は作家の「オリジナル工芸作品」ですので、分業で作るなどということはありえず、制作工程のすべてを一人の作家が手がけます。
つまり、商品としての雛人形を製造するのではなく、最初から、人形作家が自分のアート作品を創り出しています。一般の雛人形とは発想の段階から違っているのです。
木の鐸会の雛人形はデパートの「雛人形売り場」や一般の人形専門店にはありません。髙島屋の美術画廊に展示され、「美術工芸品」として扱われています。
組み合わせる屏風(別売)も、古い時代布を厳選して使用しています。
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